霊夢×香霖SS(仮)




時計の時刻は5時を指している
 
冬なので外はもう闇に覆われ始めている
 
今日も客が来なかったな……
 
いや、客でない奴なら昼間からいるが……
 
「霊夢」
 
僕はお茶を湯呑みに淹れ、客でないこの紅白にそれを差し出した
 
「……」
 
「…霊夢?」
 
「…え?あ…何?霖之助さん…?」
 
様子がおかしいな
 
少し近づいて彼女の顔を見る
 
「…顔が赤いぞ。風邪か?」
 
「風邪……?」
 
自分で自分の体調がわからないらしい
 
額に手を当ててみる
 
じんわりと汗ばんでいる。それに、熱い
 
「ああ、やっぱり風邪だ。凄い熱だぞ」
 
「おかしい…な………今朝は……なんとも…なかった……のに…」
 
霊夢は今日の正午あたりにうちに訪れた
 
確かにその時はいつもどおりだったな
 
なら…うちに来てから発熱し始めたのか
 
「大丈夫…じゃなさそうだな。その様子じゃ」
 
「頭……痛い……」
 
頭を抑え、力なくうなだれる霊夢
 
この状態じゃ霊夢が一人で帰るのは無理そうだ
 
飛ぶ事はおろか、歩く事すらできないだろう
 
「仕方が無い……僕が送ってやるよ」
 
そう言い、霊夢に手を差し伸べた
 
 
 
外はもう見渡す限り闇に溶け込んでいる
 
その暗い道のりを、僕は歩いている
 
背中に、良く見知った少女を背負って
 
「…辛くないか?」
 
「ん……」
 
霊夢に負担を掛けないように、ゆっくりと歩を進める
 
神社への道は一本道だから暗くても迷う事はない
 
「霖之助さんは……大丈夫…なの……?」
 
「荷物運びならいつもやってる事だよ。僕の事より自分の心配をしてくれ」
 
「………」
 
霊夢の呼吸が荒い
 
症状が悪化してきてるようだ
 
なるべく早く着くように、少しだけ歩く速度を上げた
 
 
 
なんとか神社に辿り着く
 
とりあえず霊夢を休ませないと
 
霊夢の部屋に入り、布団を敷く
 
店から持ってきた荷物から霊夢の服(新着用に作っておいた)を取り出し、霊夢に差し出した
 
「霊夢、自分で着替えられるか?いや、そうでないと困るんだが…」
 
「……うん」
 
「そうか。僕は食事を作るから、着替えたら寝ていてくれ。わかったな?」
 
「……うん」
 
焦点の定まらない眼をしながら、霊夢は頷いた
 
少し心配だが、僕は僕にできる事をしなくてはならない
 
台所を借りて粥を作る
 
勝手知ったる何とやらと言うが、まぁ霊夢や魔理沙もうちで同じ事をしてる訳だし
 
粥を持って霊夢の部屋に入る
 
霊夢は布団に入ってはいたが、咳をするばかりで眠ってはいなかった
 
僕に気づき、体を起こす。服はちゃんと着替えたようだ
 
「霊夢、ご飯だ。…食べられるか?」
 
「ん……」
 
肯定とも否定ともとれない返事だが、肯定という事にしておいた
 
スプーンで粥をすくい、霊夢の口へ近づける
 
「…こういうの……恥かしいん……だけど……」
 
「そういう事言う余裕があるなら食べろ」
 
強引にスプーンを口の中へ入れる
 
「…美味いか?」
 
「……うん………美味しい……」
 
「そうか」
 
暫く同じ作業が続く
 
僕は粥をすくい、霊夢はそれを食べる
 
時間にしてみれば数秒なのに、やけに長く感じた
 
皿の中身が空になる
 
鞄から薬を取り出し、霊夢に飲むように言う
 
永琳が精製した風邪薬だ。これを飲めば明日には治っているだろう
 
 
 
薬を飲み終え、再び布団の中へ潜り込む霊夢
 
後は寝るだけだ
 
最後にもう一度熱を測るために額へ手を当てる
 
…さっきよりは引いてるみたいだ
 
この様子ならもう大丈夫だろう
 
そう思い、立ち上がろうとする
 

――ぐいっ
 

「……?霊夢…?」
 
霊夢の手が僕の服を掴んでいる
 
「霖之助さん………もう少し……だけ……」
 
「?」
 
「ここに…いて……ほしい……」
 
「――!」
 

正直驚いた
 
熱にうなされているとはいえ、あの霊夢が弱音を……甘えを見せたのだ
 
…そうか、そうだよな。何だかんだ言っても、霊夢はまだ子供だ
 
普段は誰にも干渉しようとしないが…根本的な部分はやはりみんなと変わらない
 
むしろ、彼女はもっと他人に甘えてもいいんだ
 
「…わかったよ、霊夢」
 
そう言い、僕は彼女の手を握った
 
「ありがと………」
 
心なしか、霊夢は笑ってくれたように見えた
 

やがて寝息が聞こえてくる
 
…まったく、寝顔だけは普段と違って素直なものだ
 
そう思い、僕は愛しいとすら思える霊夢の寝顔を暫く見つめていた
 


おわり

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